「好きなことがわからない」あなたへ──定年前後の起業に必要なのは、“違和感”から始める視点

60歳が近づいてきた。仕事もそろそろ終わりが見えてきた頃、ふと頭をよぎるのが「この先、自分はどう生きるのか」という問い。中には「これから起業してみようかな」と思う人もいるでしょう。けれど同時に、こう感じていませんか?

「でも、好きなことが何かなんて、よくわからないんだよな」
「やりたいことって、別にないしな……」

よくある起業アドバイスには、「自分の好きなことを仕事にしよう」とか「これまでのキャリアを棚卸しして強みを見つけよう」といったものが並びます。もちろん、それが役立つ人もいるでしょう。でも、50代後半や60歳前後の方にとっては、それがむしろ“モヤモヤ”の原因になっていることも多いのです。


■「好きなことがない」のは悪いことではない

会社員として何十年も走り続けてきた人にとって、「自分の好きなことに時間を使う」という発想自体が、これまでの人生にあまりなかったかもしれません。だから「やりたいことが見つからない」と焦るのは当然です。

でも、それは「何も持っていない」という意味では決してありません。むしろ逆です。

あなたは、社会の中でいろいろな“違和感”や“不便”を見てきたはずです。
「なんでこうなってるんだ?」
「もっとこうしたらいいのに」
そういった“引っかかり”のようなものが、実は起業のタネになります。


■「違和感」をヒントにする

たとえばこんなケースを考えてみましょう。

  • 地元のスーパーが高齢者にとって不便だと感じた
    → 高齢者向けの移動販売や買い物代行のニーズがあるかもしれません。
  • 通院のたびに病院で手続きや説明が煩雑だと思った
    → 高齢者の付き添いや医療サポートをする個人事業が考えられます。
  • 定年後、職場の人間関係が一気に消えて孤独を感じた
    → シニアの交流や趣味活動をつなぐコミュニティの場が必要とされているかもしれません。

自分が「これはちょっと困る」「おかしい」と思ったことは、きっと他の誰かも感じています。その“違和感”こそが、社会の穴を見つけるセンサーであり、ビジネスの原石なのです。


■「強み」より「解像度の高い視点」で考える

よくある自己分析では「自分の強みを探そう」と言われます。でも、経験が長い人ほど、「どれも普通にやってきたことで、何が強みかわからない」と感じてしまうことも。

そこで提案したいのは、「自分がどこに一番“目を向けていたか”を思い出す」という視点です。たとえば──

  • 営業成績より、部下の表情や様子が気になっていた
  • 商品企画のアイデアより、社内の部門間調整が得意だった
  • 新規開拓より、既存顧客の悩みを聞いて寄り添うことが多かった

これらは、数字や肩書きには現れにくいけれど、実は「他の人には真似できない視点」です。こうした“解像度の高い経験”を起点にすれば、あなたにしかできない事業が見えてきます。


■事例:3つの起業のかたち

①「表情に気づく力」を生かす:シニア向けコーチング業

元営業部長のAさんは、数字ではなく部下の様子やメンタルに気を配ってきました。退職後、その「寄り添う力」を活かして、再雇用社員向けのライフコーチングを始めました。
1時間5,000円〜のオンライン相談や、企業との契約によるキャリア支援プログラム(月額10〜30万円)で、今では月に3〜4社と契約しています。

②「社内調整力」を活かす:プロジェクト進行支援

商品開発部にいたBさんは、企画よりも社内の調整役が得意でした。退職後は「部門横断プロジェクトの調整屋さん」として独立。週1回の出社+リモートで、企業の“裏方進行役”を担い、3社と月額契約(10万〜15万円/社)を結んでいます。

③「顧客に寄り添う力」を活かす:地域密着型相談サービス

Cさんは、営業時代に顧客の細かな悩み相談に応じることが多く、退職後は「シニア暮らしのなんでも相談室」を開業。行政手続きの代行や病院付き添いなどを月額プランで提供し、地域にファンを増やしています。リピート率は8割以上です。


■「誰かの困りごと」発想で考える

「好きなこと」よりも、「誰かの困りごと」に寄り添う発想のほうが、起業はうまくいきやすいのです。特に、人生経験を重ねてきた世代には、“人の話を聞ける力”“相手の背景を思いやる力”があります。それは、若い起業家にはない武器です。

ご近所、家族、かつての同僚……誰かが困っていたことを、思い出してみてください。その小さな話の中に、「あなたができること」はきっと眠っています。


■まとめ:「自分探し」ではなく「社会への問いかけ」から始める

60歳前後の起業には、自己実現や自己分析よりも、「社会に対する問い直し」が大切です。

なぜ、これはこうなっているのか?
なぜ、誰もやらないのか?
なぜ、自分はこれが気になるのか?

その問いの先に、事業のヒントがあります。
“好きなことがわからない”という感覚は、実は「まだ型にハマっていない、自由な状態」でもあります。だからこそ、自分の違和感や観察力を信じて、社会との新しい関わり方を探してみてください。

ビジネスとは、「何かを売ること」ではなく、「誰かの助けになること」です。
あなたが見てきた現実、あなたが抱いてきた違和感、そしてあなたにしかない視点──それが、起業の最大の資源です。

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